ICON’S HISTORY
2023.12.28feature
LANVIN COLLECTION MEN’Sには、ブランドの顔であるアイテムがいくつかあります。
今回は、その中から<パリスシングルトレンチ>と<パブロジャケット>をピックアップ。どちらもLANVINの創設者、ジャンヌ・ランバンの生きた時代から着想を得たアイテムです。パリのエスプリを感じられるシルエット、ディテール、厳選した素材選びによって完成された2アイテム。そこには、濃厚な歴史と燃えたぎる情熱が詰まっていることを知って頂ければ幸いです。
TEXT_Tomoki Sukezane
(「ALLO!ALLO!EXPRESS Vol.1」より抜粋)
“素敵な見え方”を追求し尽くしたLCMの象徴と言えるコート。
まず、最初のブランドアイコンと言えるアイテムが、この「パリスシングルトレンチ」。これまでの5シーズン、全てで展開してきました。毎回、季節ごとに生地を変え、ちょっとしたディテールやシルエットの変更にこだわっています。常に目指しているのは“軽やかに着られるエレガントなコート”。本来、トレンチといえばダブルフロントですが、それをシングルに。エポーレットやウエストベルトを省き、パリらしくシンプルかつモダンな表情に仕上げています。が、ただ単にミニマムなデザインなのではありません。襟を立てたり寝かせたり、はたまたフロントを開けて着たりと、着こなし次第で多様な表情を作り上げます。そんな、着る人によって見え方が多様に広がるのが、このパリスシングルトレンチの持つエスプリなのです。ポケットの上にあしらわれたプリーツは、ランバン コレクション メンズのアイコンディテール。このデザインは、スラックスやブルゾンのポケットにも生かされています。手を入れた時に、指や手の凹凸を見せることなく、しなやかな丸みを生み出す。単に道具としての服ではなく、素敵な見え方を追求した服作りを大事にしているのです。
今季は、これまで使われてきた柔らかな素材とは、少し趣を変えてキャバリツイルを採用しました。質実剛健なキャバリツイルは、ロンドンのサヴィルロウにある老舗テーラーなどで好んで使われる、ジェントルマン好みな素材です。それを、ガチガチに着るのではなく、さらりと軽やかに着られるように仕上げました。ミリタリークローズなどにも使われるタフな素材ですが、それを早朝、ベーカリーへパンを買いに行く時に、パジャマの上に引っ掛けて着て行って欲しい。ガウンかバスローブでも着るように羽織ってほしいのです。
こういうドラマのあるアイテムをひとつでも多く増やしていけるよう、スタッフは日々、絶え間ない努力をしています。
エコール・ド・パリの大スター、若き日のピカソに憧れて。
パブロジャケットは今シーズンで4季目。リブランド後の2季目から作り始めました。毎回生地を変え、ディテール変更を繰り返し、今季は大胆に着丈を短くしました。これまでは、スリークォーターな着丈でしたが、今季はヒップが隠れるくらいになりました。色もこれまでは黒一色でしたが、今季はハウンドトゥースやヘリンボーンの柄でも作っています。
このジャケットは、ランバンの愛好者とされるジャン・コクトーが残した写真から着想を得ました。1917年に、パリのモンパルナスで撮られた写真に残っている、ピカソ、モディリアーニ、マックス・ジャコブたち。みんなの格好が興味深く、特にピカソの着ているジャケットに惹かれました。そもそも、この写真が掲載されていた「Un Jour avec Picasso」は、25年程前にポータークラシックの吉田克幸さんにいただいたもの。当時、「シアトルとサンフランシスコへ遊びに行こう」と誘って頂き、ヴィンテージマーケットを巡ったり、モーテルで同じ部屋に泊まったりして実に楽しい時間を過ごしました。その時に僕が読んでいた本が「ピカソ偽りの伝説」。で、それを知った克幸さんが帰国後に送ってきてくれた写真集がこれだったのです。ページをめくると、若かりし頃のピカソとその周りのアーティストたちが、モンパルナスでそれぞれドレスアップして楽しそうにしている姿に目が釘付けになりました。ランバン コレクションの仕事をすることになって、その時のときめきを服作りに活かせることは、望外の喜びです。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、ジャンヌ・ランバン、ジャン・コクトー、パブロ・ピカソ、吉田克幸さんに感謝なのであります。今季、パブロジャケットは着丈が短くなりましたが、遊びの多い大きなポケットは健在です。カバンなど持たずに、ノートも携帯電話も書類もポケットに。手ぶらが可能な風天な魅力満載の逸品に仕上がっています。