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THINGS I LOVE vol.1

2025.04.10feature

こんにちは。祐真朋樹です。
計7シーズン、LANVIN COLLECTION MEN’Sのクリエイティブディレクターを務めさせていただきましたが、2025年秋冬からはその役目を大島隆之(@oshima_takayuki)さんにバトンタッチ。今後はメンズラインの応援団長のような立場で見守っていこうと思います。
そして今回から、40年以上をかけて集めてきた、僕の大事な洋服や小物・雑貨にまつわる連載コラムを書いていくことになりました。つまり、“ THINGS I LOVE ” についての物語です。
‘80年代後半から’90年代、そして現在に至るまで、数え切れない数のデザイナーたちの名作に出会い、購入し、着まくってきました。そんな僕から皆さんへの伝言です。

その第1回目に取り上げるのは〈ロメオ ジリ〉です。

 今の20代以下の若者はほとんど知らないのではないかと思う『ロメオ ジリ』。それまでジョルジオ アルマーニ一辺倒だったミラノコレクションに大旋風を巻き起こし、日本でも1980年代に大きな話題となったブランドだ。

 僕が初めてこのブランドに出会ったのは、原宿にあったインターナショナルギャラリー・ビームス。デザイン過多な服が並ぶ中、シンプルで美しく、高品質な素材のシャツがスクエアなアクリルボックスの中に鎮座していた。それはデザイナーブランドでありながら、奇をてらわない凜とした雰囲気に満ちあふれていた。後年、ヘルムート ラングやジル サンダーらが続々とミニマルなメンズウエアを発表していくわけだが、その源流とも言えるのがこのロメオ ジリだったと思う。

 シャツで5万円超と、当時としては破格の値段であり、服バカの僕でもかなり購入に躊躇したのを覚えている。その後、「アンコンジャケット」と呼ばれるジリのジャケット(もちろん高額)を清水の舞台から飛び降りるような気持ちで購入。毎日のように着ていた。それまでは、仕事で「渋カジ」とか「エフデジェ」などのスタイルを提案していたが、ジリとの出会いにより、一気にモードなメンズファッションへと舵が切られたのである。

 ジリが提唱していた「デコントラクテ」というのは、フランス語で「非構築的な」の意味。それを「アンコンストラクテッド」と英語表現にして、『アンコンジャケット』と呼んでいた。今では肩パッドが入っていないジャケットを当たり前のようにそう呼ぶが、これは当時、メンズファッションに大旋風を巻き起こした出来事であった。僕はこの『アンコンジャケット』がすこぶる気に入り、1着目はインターナショナルギャラリー・ビームスで、2着目はミラノにあったジリのショップで購入。パターンはまったく同じだったが、1着目はリネン、2着目は細畝コーデュロイ。素材が違うと見え方もまったく異なる。この1年は年間を通してザ・ロメオジリ男であった。

 今回はそのアンコンジャケットを見せたかったのだが、アーカイブを保管している倉庫でどうしてもそれらを見つけることができなかったので、代わりにランチコートを紹介する。このコートも、ジリ男時代にヘビーに着ていた1枚。アンコンジャケットの上に重ねても着られたし、落ち着いた紺色(年月を経て、ちょっとくすんでしまったが)とボア部分の金茶の組み合わせに惹かれた。

 
それからのロメオ ジリは、ディフュージョンブランド『G Gigli』を日本で展開するも、90年代後半のプラダ、グッチ、ドルチェ&ガッバーナの一大ミラノブームに乗ることはなく、いつしか忘れられていくことに。

 が、90年代前半のロメオ ジリがメンズファッションに与えた影響は、今に繋がるメンズスタイルに大きな影響を与えたことは間違いない。 そういえば、若き日のアレキサンダー マックイーンがロメオ ジリのアトリエの門を叩き、短期間ではあるが修行していたことも伝説になっている。

■祐真朋樹(@stsukezane
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。